日本企業の停滞と「失敗の本質」──なぜ今こそ経営戦略の浸透が必要なのか
- Centerboard 石原 正博
- 5月25日
- 読了時間: 3分
日本企業の競争力が低下している。その事実は、日々のニュースや現場の閉塞感、グローバル市場での存在感の希薄さからも感じ取れるだろう。かつて世界を席巻した日本企業が、なぜこれほどまでに失速したのか。
そのヒントは、戦時中の日本軍の失敗を分析した名著『失敗の本質』にある。

戦略が浸透しなかった日本軍
『失敗の本質』では、日本軍が太平洋戦争に敗れた要因を、6つの事例を通じて組織論的に分析している。その中でも繰り返し指摘されるのが、「戦略と現場の乖離」である。
現場の兵士は勇敢に戦った。しかし、上層部の戦略意図が現場に伝わらず、独断専行がはびこり、組織全体として一貫性を欠いた行動が繰り返された。その結果、戦力を効果的に活用できず、次第に劣勢に追い込まれていった。これはまさに、現代の日本企業が抱える問題と酷似している。
日本企業に足りないのは「戦略のカスケードダウン」
今の日本企業でも、現場の社員は真面目で優秀だ。だが、なぜか成果に結びつかない。改革が進まない。成長事業に人が集まらない。
その最大の原因は、経営戦略が現場にまで浸透していないことだ。戦略の意図が伝わらなければ、現場は過去の慣習で動き、経営の想定とは違う判断をしてしまう。努力はするが、方向性がズレる。
まさに『失敗の本質』で語られた構造と同じである。
なぜ戦略の浸透がこれほど重要なのか?
経営戦略は、経営者が「勝ち筋」を見定めた指針である。
しかし、その意図が組織に伝わらなければ、社員は従来のやり方を踏襲する。
経営戦略の浸透(=カスケードダウン)を通じて、社員が“自分ごと”として理解し、行動に移すことではじめて、戦略は成果に結びつく。つまり、戦略を描くこと以上に重要なのは、戦略を現場の意思決定や行動レベルにまで落とし込むプロセスなのである。
過去は勝てた。だが、今は違う
高度経済成長期の日本は、戦略がなくても市場の成長という追い風があった。現場の努力と品質の高さで結果が出た。だが、今は人口が減り、市場も飽和し、競争は激化している。戦略なき努力では成果は出ない。むしろ、努力すればするほどリソースが分散し、空回りするリスクが高まっている。
だからこそ今、戦略の浸透が最重要課題となっている。
戦略を「伝えること」からやり直そう
経営者がどれだけ立派な戦略を描いても、現場がその意味を理解し、納得し、主体的に動かない限り、変革は起こらない。
『失敗の本質』が教えてくれたのは、「勇敢さ」や「能力」の問題ではない。「構造」の問題なのだ。そして、その構造を変える第一歩が、戦略の意味を伝え、浸透させることにある。
戦略のカスケードダウンを、企業の「1丁目1番地」として位置づけ直すとき、日本企業はもう一度、競争力を取り戻すことができるだろう。
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